「バクロギプシナ・スファエルラタ」
「え?」
「海の中にいる有孔虫という小さな虫だよ。その死体なんだ」
「死体」
「そう、死体。その虫は原生生物っていう、植物でも動物でもない生きもののひとつだよ。五百万年くらい前から海にいる。その中にはもしかしたら数万年前の化石化したものも入っているかもしれない。彼らは海にただよっているゴミみたいな虫なんだ。イルカやイソギンチャクや華やかな熱帯魚と違って誰も欲しがらない、誰も気にとめない。どれだけ小さな死が積み重なっても誰も泣かない。けれどね、ゴミみたいな死骸でもこうして美しい名がつく。君が見とれるくらいの。」
からまる/千早茜
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